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雲と風をもとめて 35 ー第二楽章ー

2014/09/09 09:10


アーリアびと 1


ふと 考える。

わたしは 夢の乗り物に乗って

今 夢の中の世界を 旅していたはずだった。


これまでに出会った人たちや 目にした風景は

確かに存在し、実際に触れてみることもできた。


とすると・・・

夢ではない 現実のわたしは

今 どこで何をしているんだろう・・・?


地下深い空間から 陽の当たる場所へ戻ってきた瞬間

そんなことを急に思い出し 頭が混乱してしまったのだ。


「おばさん、どうしたのさ。
 
 どっかに いっちまったような顔をして」


少年が いつもの不遜な態度に戻って 顔を覗き込んできた。

わたしは 自分の両手を組み合わせて

その熱を確かめてみた。

「大丈夫・・ ここにいる」

自分にも言い聞かせるようにいうと 再び 少年と歩き出す。


「俺は これから うちに戻るけど
 
 おばさん、どうする?」

「うーん、特に予定はないけど 遺跡を巡ろうかとおもってる」


「そんなら うちへおいでよ。
 
 じいちゃんが 昼ご飯作ってる頃だから」


「急にお邪魔したら 失礼でしょ。 
 
 しかも お昼時に・・」

「いいさ。 じいちゃんは きっともう おばさんのこと知ってるよ」

「?」

ー会ったこともないのに 知ってるってどういうことだろう。

 彼の祖父は 星ヨミということらしかったが 超能力者でもあるまいに・・


そう思っていると

左手を ぎゅっとひっぱられた。

「おいでよ」


しばらくは 二人並んで 市街地へ向かう道を歩いていた。

土ぼこりの舞う 荒れ地のような風景の中

崩れた城塞の跡のような 敷石があちこちに散らばっていた。


その ひとつの平らな石の上に

腰を下ろして 楽器をつま弾いている人があった。

小さな三味線を細長くしたような 多分手作りの弦楽器。

複弦になっているのか

思いもかけない ふくよかで繊細な音を奏でている。

そして そのメロディは とても懐かしい 

いにしえから届いたような・・・


邪魔をしないように ふたり そっと通り過ぎようとしたとき


「 Madam・・

  よろしかったら この花を買っていただけませんか ? 」

声をかけられた。

差し出されたその花は

かつて 一度も目にしたことのないものだった。

























「 Blue Poppy・・・花言葉は 神秘。 
 
  果てしない旅を往くあなたに お持ちいただきたい。」


それは あまりに可憐で 崇高で この世の花とは思えないほどだった。

とても 心惹かれたので 代金を聞いてみると

ホテルの朝食1回分ほどの値段だったので 貰うことにした。

彫りの深い顔は カールのかかった髪に半ば覆われていたが

この辺りでは珍しい位白く 整っていた。

この人もまた 異国から流れ着いた吟遊詩人なのだろうか。


「良い旅を」


と青年は祝福をくれた。



しばらく 余韻に浸って歩いていたが

少年が こちらの様子を覗き込んで見るので

「ふふ。
 
 Madam って いわれちゃった。」

と おどけてみせると

「ばかだな。

 Madamって おばさん、って意味じゃないか。

 若い人は Lady だからな。」


かなり むっときた。 このまま 自由行動に切り替えようかと

早足で歩きだした途端


「あの人は この辺りじゃ 『花売り詩人』って呼ばれてるよ。

 神出鬼没で ここんとこ 2ヶ月位 姿を見てなかったな。」


「眼をつむっていたけど 盲目なの?」

「いや。見えるけど 眼はほとんど必要ないらしい。」

「じゃ、きっと あなたみたいに もうひとつ目があるのね。

 胸の当たりに・・ね。」


その言葉で 少年は少しぷんとしたので おあいこになった。


「その花は ネパールの天上の妖精って言われてるほど貴重なものなんだ。 

 見てご覧よ。

 今さっき 摘んできましたってくらい 瑞々しいよ。」


「じゃ、急いで!

 あなたのおうちで お水をあげなくちゃ。

 枯れてしまわないうちに。」


わたしは バックからハンカチを取り出し

天上の妖精を そっとくるんだ。




Astha Tamang-Maskey - Emotion -












 
 


  






□前回までのあらすじ□

ー雲と風をもとめてー 再び旅へ 1

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3826.html



ー雲と風をもとめてー 再び旅へ 2

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3828.html



ー雲と風をもとめてー 再び旅へ 3

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3836.html



ー雲と風をもとめてー 再び旅へ 4

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3843.html



□番外編□
Salt Lake Cafe

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3165.html



Salt Lake Cafe - 2

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3210.html



Salt Lake Cafe -3

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3474.html



Salt Lake Cafe -4

http://www.ltm.jp/artists/binawiththebutler/blog/3239.html



これくらいにしておきましょう。
番外編は なんと 12話まであるので
どうぞ お時間あるときにでも・・・







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