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夜を超えてーある夢ものがたりー

2012/05/01 19:15


ある夜

少女の爪のような 
薄い 薄い月を見上げているうちに
北へ向かう夜行列車に飛び乗っていた。


ー咲き初めました・・・

その知らせを聞いて

気がつくと最終電車の中。


もうかれこれ ひと月のあいだ
桜を追って 旅をしている・・・



流れ往く 電飾の車窓。

乗り合わせた乗客たちの弾む会話も
持ち込んだ夜食やアルコホルの熱を帯び

首都圏を抜けた頃には
柔らかな眠りと旅情の揺りかごのなか・・・・

夜の河を超え
暗く横たわる平野を抜け
谷を越え
山へと分け入る。


突然遮断される景色。

真っ暗闇の中で 耳の奥が鳴る。

灯る車内灯。

列車は長いトンネルの中へ・・・・


ガラス窓に突然浮かび上がる自分の横顔に少し戸惑い

反対側の座席に目をやると

静かに本を読む紳士。

イヤーホンをつけて 携帯のメールに見入る青年。

里帰りらしい若い母親と幼児。
一体化して眠る。

みんなそれぞれが

まるで 星間距離をとっているかのように
絶妙なレイアウトでそこに位置している。

規則的な振動と音の中に
静かに呼吸している。


眠いわけではなかったが
軽い疲労を感じて
わたしは ゆっくり目を閉じる。


眠りに落ちていく前に

かすかな

遠い


遠い


汽笛を聴いたような気がした。
 



 

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