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TAG:ものがたり

雪の夜の幻想曲 2

2012/02/04 17:15


確かに 底というものはあるんだろう。

いさ子はそう思った。


人生の中には 何度か窮地はあるが
トンネルなら 歩いていればいつかは抜ける。

だが
ほころびを繕い
破れ目を補強したつもりでも
ある日、その裂け目から 
深い井戸のようなものが垣間見えるときがある。


1週間前に いさ子は
勤務先から 部所移動を通達された。
実質は レイオフを宣告されたようなものだった。

契約の区切りまで残り10日。
一日一日が 拷問のように思えた。


仕事を終えて 外に出ると
昨夜からの雪が ますます激しくなっていて
バス停には 長蛇の列ができていた。
待っていると 雪に埋もれてしまいそうで
いさ子は 歩き出した。

幹線道路を過ぎる頃には
空も 辺りの景色も 濃い鼠色 ひといろに覆われ
まばらな街灯に浮かび上がる雪だけが
存在感を持っていた。

雪用のブーツは履いていたが
その靴裏に張り付いて来る雪の重さで
すでに いさ子の足取りはおぼつかなくなっていた。
急に 足元がすくわれたような感覚とともに
体が大きく前につんのめった。
あっと思ったときには、いさ子の体は
地面の窪地にできた 雪だまりにすっぽりと沈み込んでいた。

もがいてはみたが
まるで 体に力が入らない。
口の中に雪の味がした。
その瞬間
堰を切ったように
涙が溢れて 止まらなくなった。


ーお願いだから
 誰も私を 見つけないで。
 このまま
 しばらく いさせて・・・


いさ子は 雪だまりの中で
胎児のように 身を丸めて目を閉じた。

 





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